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広島文教女子大学教育双書No.3 |
[ 目 次 ] はじめに(武田学千) 第T部 人やものと共生する心を育む
第1章 幼児教育の現状:座談会
第2章 幼児教育の課題:続・座談会
第3章 環境による教育(徳本達夫)
第4章 親と子の関わり(秋山幹男)
第5章 子どもと子どもの関わり(有馬比呂志)
第6章 子どもと保育者の関わり(植田ひとみ)
第U部 文化との出会いを通して心を育む
第7章 科学する心:子どもと数(國廣昭二)
第8章 身体の成長と心(山下美佐子)
第9章 運動と心(川西正行)
第10章 子どもとことば(友定賢治)
第11章 子どもと造形(河相 優)
第12章 子どもと音楽(神原雅之)
おわりに(神原雅之)
■本文から抜粋■ はじめに
平成10年3月
毎年秋に、広島文教女子大学教育学会の研究大会が催され、貴重な研究発表や実践報告などが行われます。その一環として本年度は本学附属幼稚園で公開保育を行い、その後に保育者と参会者が膝を交えて意見交換が行われました。そのときに保育者から次のようなエピソードが紹介されました。
ある日、年少児(3歳児)と年中・年長児の異年齢交流をはかるために、昼食を一緒にすることにしました。年中・年長児は一生懸命に年少児の世話をします。しかし、皆さんも想像されますように、年少児の中には途中で遊びまわる者、食事をこぼす者、箸を落とす者などがいて、なかなか落ち着きません。その姿を前にして、年中・年長児の多くはお兄さんお姉さんぶりを発揮して、年少児に一つ一つ話して聞かせ、かいがいしく世話をしておりました。しかし、中には余りの無軌道ぶりに腹を立てて世話を止めた年長児もおりました。保育者は、その子どもの様子を連絡帳に書いて保護者に知らせました。
後日、同じように食事を共にした時、保育者は、腹を立てた子どもが以前とは違って、実にかいがいしく親身になって年少児の世話をしている姿を発見しました。その様子に驚き感心した保育者はすぐにそのことを連絡帳を通じて伝えましたところ、保護者は次のような実状を知らせてくださったのです。
前回の連絡帳を受け取った保護者は、本人に「3歳の頃は貴男も同じようなことがあって大変だったのよ。でも多くの人が助けてくださったのよ。だから、あなたも心を込めてお世話をしてあげなさい。」と伝えたとのことでした。
私はこのエピソードを聞いて、教育はいろいろな人々が様々な角度から協力し合ってこそ効果が顕れるものだ、と改めて考えさせられました。
その翌日、福岡の地で本大学の保護者懇談会が行われましたので、早速そのエピソードを紹介し、皆さんと共に本学の教育理念『心を育て、人を育てる』ことへのご意見とご協力ご支援をお願いした次第です。
『心を育てる』ことは教育の基本であります。現今、特にそのことに関心が高まっております。そこでは学校と家庭そして地域が協同で子どもたちを見守り、導くことが大切であります。その環境の中で、子どもたちは社会のルールや人間関係のあり方などを体験し、学びとっていくのだと考えられます。また、音楽、お話、絵画、動植物など、様々な自然や文化との接触を通して、豊かな心、創造性、集中力など、いろいろな性格や能力が育まれていくのだと思われます。私たちは、そのような環境を整えることにできる限りの努力を注ぐべきだと思うのです。
そうした意味から、本書が、明日の幼児教育を考えるときの一助に資することができればこの上ない喜びであります。学校法人武田学園理事長
広島文教女子大学附属幼稚園長
武 田 学 千購入は溪水社までお願いします。