「BOX」 |
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少年はその存在に聞きました。 その存在は真面目な様子を苦笑にかえた後、少年に言いました。 「でもね、その箱の中身は、あなたが決めていいのですよ。誰も、中身を知らないのだから。 あなたがその箱の中に何が入っていると思っていても、誰もその答えを見つけることは出来ない… もし、あなたが箱の中身が空だと思っているとき、箱の中身を゛在る″と答えるものがいたら、それは悪魔です。」 少年は混乱してきました。 「えぇ?でも、箱の中身は僕が決めるんだよね?悪魔にあるっていわれて、あるような気がしてきたら、どうすればいいの?」 「もし、悪魔に言われて箱の中身が゛在る″と確信したなら、その時から悪魔は神になるのですよ。」 「うっそだぁ〜!」 ふふ、とその存在は答える。 「信じる者は救われます。目に見えないものは、信じないと存在しません。 もし、あなたが酷く弱っている時、手を差し伸べてくれる人がいても、信じなければあなたはその手を取ることが出来ないでしょう。 人の心は目に見えません。箱の中身と同じです。信じれば在り、信じなければ無いのです。 だれも。…その持ち主でさえ、箱の中身を知らないのです。」 「うそだよ!僕は、僕が何を考えてるのか分かるよ!」 「それでは、その箱をあなたに差し上げましょう。」 「うん。ありがとう!でもなんで?」 「その箱はあなたのものになりました。振って御覧なさい。」 少年はぶんぶんと箱を振ってみました。今度は、がつんがつんと音がしました。 「すごい!さっきはなんの音もしなかったのに!!」 「箱の中身は分かりますか?」 少年は箱を開けようとしましたが、開きません。 「わっかんないよ!」 「でしょう?その箱はあなたのものなのに。あなたが分かっているのは、その程度です。 音がするから、何か入っているのだろう、という。 こころは確かに動くのに、目に見えない。それに意味をつけるのは、他の人の心であれ、自分しかいないのです。」 その存在はくすくすと笑います。 少年はものすごく腹が立ってきました。 しかし気にせず、その存在は続けて言いました。 「そして、よく御覧なさい。世界は、目に見えるより、見えない部分の方が多いのですよ。 見えていない物は、本当はどうなっているのか、誰も知らない、分からないのです。 知っている誰かがいたとしても、その誰かの心は、言葉は、箱の中身と同じで、誰にもその真実を確かめることはできない。 世界は開かない箱の集まりで出来ているようなものです。」 その存在の言葉は終わりましたが、くすくす笑いは続きます。 少年は怒っていましたが、だんだん恐くもなってきました。 開かない箱には、僕の嫌いな、ムカデやクモが入っているかも知れないのに。 そんなもので世界が出来ているなんて。 「どうして、この箱はひらかないんだ!ひどいよ! こんなもので世界を作るなんて…神様は酷い!」 その存在はくすくす笑いをやめて言いました。 「あなたの言う神は、本当に神ですか? われらを在らしめたのは神ですが、無かったものを゛在る″と言ったモノは始めは悪魔だったのかもしれません。 しかしわれらは今確かに゛在る″。われらが゛在る″からこそ、神は神…」 少年は憮然として、その存在の言葉をさえぎりました。 「そんなの知らないよ。でも神様は、はじめに言ったんだ、゛光、あれ″」 その言葉を聞くと、その存在は少しおどろいたように目を見開いて、少年の前から消えました。 少年は少年ではなくなりました。 大人になった今なら、あの存在が、悪魔というモノだったのかもしれないと思うことができました。 箱を使って、少年をからかって遊んだのでしょう。 箱は今でも大切に取ってあります。 机の引出しの奥に、ひっそり。 からかわれたのだと分かるようになってから考えても、悪魔の言う事ははずれてはいない気がしたからです。 でも、深く考えるとよく分からなくなってくるので、考えない様にしていました。 箱の中身が真実でなくとも、箱に入っている心が通じる事はなくとも、信じることができるものがあるからです。 それは、少年でなくなった少年が積み重ねてきた経験と、゛箱″そのものでした。 |
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