「BOX」

少年はその存在に聞きました。
「神と悪魔は、どうやって見分ければいいの」
その存在は答えて言います。
「確かに。神も悪魔も超常的な存在であり、人の運命を左右するものですね。見分ける…ねぇ…」
そういってすこし悩むふりをして、その存在は小さな箱を取り出しました。
「この箱には、何が入っているか分かりますか」
少年は答えます。
「開けて見ないと分からないよ」
「そうですね」
その存在は、少年に箱を渡しました。
少年はその箱を開こうとしてみました。
しかし、どうやってもその箱は開きませんでした。
振ってみても、叩いてみても、何の反応もありません。
「ひらかないよ」
「そういうものなのです」
その存在はさらに答えます。
「その箱の中身。その事で神と悪魔が言い合っていたとしましょう。
 箱の中に゛ある″ものを゛在る″と言うのが神であり
 箱の中に゛ない″ものを゛在る″と言うのが悪魔です。」
その少年はあっけにとられて答えます。
「それじゃ、僕は箱の中身を知らないから、どっちが悪魔で、どっちが神なのか、わからないよ!」
「そうですね。でも、箱は開かないのだから、仕方ありませんね。」
答えに、少年はむくれてしまいました。


その存在は真面目な様子を苦笑にかえた後、少年に言いました。
「でもね、その箱の中身は、あなたが決めていいのですよ。誰も、中身を知らないのだから。
 あなたがその箱の中に何が入っていると思っていても、誰もその答えを見つけることは出来ない…
 もし、あなたが箱の中身が空だと思っているとき、箱の中身を゛在る″と答えるものがいたら、それは悪魔です。」
少年は混乱してきました。
「えぇ?でも、箱の中身は僕が決めるんだよね?悪魔にあるっていわれて、あるような気がしてきたら、どうすればいいの?」
「もし、悪魔に言われて箱の中身が゛在る″と確信したなら、その時から悪魔は神になるのですよ。」
「うっそだぁ〜!」
ふふ、とその存在は答える。
「信じる者は救われます。目に見えないものは、信じないと存在しません。
 もし、あなたが酷く弱っている時、手を差し伸べてくれる人がいても、信じなければあなたはその手を取ることが出来ないでしょう。
 人の心は目に見えません。箱の中身と同じです。信じれば在り、信じなければ無いのです。
 だれも。…その持ち主でさえ、箱の中身を知らないのです。」
「うそだよ!僕は、僕が何を考えてるのか分かるよ!」
「それでは、その箱をあなたに差し上げましょう。」
「うん。ありがとう!でもなんで?」
「その箱はあなたのものになりました。振って御覧なさい。」
少年はぶんぶんと箱を振ってみました。今度は、がつんがつんと音がしました。
「すごい!さっきはなんの音もしなかったのに!!」
「箱の中身は分かりますか?」
少年は箱を開けようとしましたが、開きません。
「わっかんないよ!」
「でしょう?その箱はあなたのものなのに。あなたが分かっているのは、その程度です。
 音がするから、何か入っているのだろう、という。
 こころは確かに動くのに、目に見えない。それに意味をつけるのは、他の人の心であれ、自分しかいないのです。」
その存在はくすくすと笑います。


少年はものすごく腹が立ってきました。
しかし気にせず、その存在は続けて言いました。
「そして、よく御覧なさい。世界は、目に見えるより、見えない部分の方が多いのですよ。
 見えていない物は、本当はどうなっているのか、誰も知らない、分からないのです。
 知っている誰かがいたとしても、その誰かの心は、言葉は、箱の中身と同じで、誰にもその真実を確かめることはできない。
 世界は開かない箱の集まりで出来ているようなものです。」
その存在の言葉は終わりましたが、くすくす笑いは続きます。
少年は怒っていましたが、だんだん恐くもなってきました。
開かない箱には、僕の嫌いな、ムカデやクモが入っているかも知れないのに。
そんなもので世界が出来ているなんて。
「どうして、この箱はひらかないんだ!ひどいよ!
 こんなもので世界を作るなんて…神様は酷い!」
その存在はくすくす笑いをやめて言いました。
「あなたの言う神は、本当に神ですか?
 われらを在らしめたのは神ですが、無かったものを゛在る″と言ったモノは始めは悪魔だったのかもしれません。
 しかしわれらは今確かに゛在る″。われらが゛在る″からこそ、神は神…」
少年は憮然として、その存在の言葉をさえぎりました。
「そんなの知らないよ。でも神様は、はじめに言ったんだ、゛光、あれ″」
その言葉を聞くと、その存在は少しおどろいたように目を見開いて、少年の前から消えました。

少年は少年ではなくなりました。
大人になった今なら、あの存在が、悪魔というモノだったのかもしれないと思うことができました。

箱を使って、少年をからかって遊んだのでしょう。
箱は今でも大切に取ってあります。
机の引出しの奥に、ひっそり。
からかわれたのだと分かるようになってから考えても、悪魔の言う事ははずれてはいない気がしたからです。
でも、深く考えるとよく分からなくなってくるので、考えない様にしていました。

箱の中身が真実でなくとも、箱に入っている心が通じる事はなくとも、信じることができるものがあるからです。
それは、少年でなくなった少年が積み重ねてきた経験と、゛箱″そのものでした。


あとがき
ハイ、訳分かりませんでした(‐v‐;)
でも楽しかったvv(駄目じゃん)屁理屈こねくり回す言葉を考えるのが好きです。
続き…というか「その存在」が出てくる別の話…
気が向いたらまた書いてみようかな。
こんどはもっと軽い話を書きたい…。