指導に当たって 基本的な考え方

 発達障がいと診断された児童,あるいはその疑いのある児童,個別に指導の必要のある児童の中には,視覚からの情報や聴覚からの情報を十分利用できていないことが往々にして見られます。

 当塾では,以下のような指導を通して,視覚からの情報や聴覚からの情報をしっかり利用できるようにします。そのうえで,障がいの特性に合った指導内容を一人ひとりの実態に合わせて指導することで,指導効果を高めます。

指導例

 聴覚的情報を利用できるようにする指導例

   「聞いたことをすぐ忘れる」子どもの場合,聴覚的注意力のほか,聞いた言葉を一時的に記憶する力が十分育っていない場合が多く見られます。「さっき言ったじゃない。」としからないでください。力がついていないだけなので,鍛えればいいのです。

〇 短文を正確に聞く学習

   次のような4語文を正確に復唱できるようにします。

  ・ 飛行機が屋根に引っかかって,落ちてこないよ。

  ・ 次は,お姉さんが歌を歌います。

〇 文を聞いて,位置関係を理解する学習

   次のような文を聞いて,位置関係をつかむことができるようにします。

  ・ 子どもが5人並んでいます。向かって右から2番目の子どもは黄色い帽子をかぶっています。

  ・ 太い木の前にポストがあります。

〇 文を聞いて,登場人物の感情を理解したり,状況を推測したりする学習

   次のような文を聞いて,登場人物の感情を理解したり,状況を推測したりすることができるようにします。

  ・ 走って行っても,学校には間に合わない。

  ・ 妹は床に座ってうつむいている。何かぶつぶつつぶやいている。いったいどうしたんだろう。

 視覚的情報を利用できるようにする指導例

  積み木模様の規則性を発見し,正しく模倣する学習

  例えば,{例}の2つの積み木の組み合わせを模倣でき,さらに,次の3つの模様の中にこれと同じものがどこにあるのか見つけることができるようになると,規則性を発見できたことになります。

{例}

積み木9個で作った模様

出来事を文章で表現する学習

 場面の様子や登場人物の感情を推測し,表現することができるようにします。

 「落とし物を預かろうとする先生に対し,拒否している子どもの絵」(ソーシャルスキルトレーニング絵カード、編・著 言葉と発達の学習室M,発行 エスコアール)を見て,原稿用紙の使い方の決まりを守って,次のような作文を書いた例があります。

 休憩時間に,教室で先生から○○君からキーホルダーを預かろうとしています。先生は 「先生に返して。」
と,言いました。  ○○君はキーホルダーをかくして,
「先生には返さない。」
と,言いました。△△さんのだとわかっているのです。でも,自分で返すことが話せていません。(以下略)

場面の様子,登場人物の感情を絵から読み取り,これを文章化する活動の中で,例えば「いい加減にしなさい」は「もうやめなさい」,「絵の具を持って帰りなさい」は「絵の具セットを丸ごと待って帰りなさい」という意味であるなど,【言外の意味】を理解できるようにします。

 また,「ボードゲームの際,自信がなくて,友達に代理を頼んだ場合,その友達が失敗してもなじるものではない。」,「招かれた家に行って,『この家,臭いね。』とは言わない,「『おじさんはどうしてはげているの。』と質問しない」などの【暗黙の了解】を理解できるようにします。

 次の作文は,6年男児が【暗黙の了解】「他人の家庭のことについてとやかく言わない」を理解し,場面構成を意識し,表現を工夫して楽しみながら書いたものです。(ソーシャルスキルトレーニング絵カード,編・著 言葉と発達の学習室M,発行 エスコアール)

 ある夏の土曜日,太郎が散歩していると,○○のお母さんに出会い,
「こんにちは。○○のおばさん。きょうはいつもよりもいいてんきですね。あっ,それと,おばさんのうちの子は太りすぎですよ。食事の栄養バランスを考えてあげた方がいいよ。」
と,言いました。
 それを聞いた○○のお母さんは,ぷんぷん怒って、
「何よ。うちの子の欠点を気安く言ってんじゃないわよ。そんなこと,言われなくても,ちゃんと栄養バランスを考えているわよ。しっかっも,それじゃ,私も太っているようじゃないの。」
と,どなりつけました。
 だけど,太郎はひるまず,目を細めて,つまらなさそうな顔で,
「ええ。本当に栄養バランスを考えていますかあ。いつも肉や油っぽいものばかりを出して食べさせているんじゃあないでしょうねえ。」
と,しつこく言いました。
 でも,そこを運悪く親に見られて,
「こらあ。太郎。人に向かって失礼なことを言ってんじゃないわよ。すみません。うちの子が。ほら,あんたも謝りなさい。」
と,どなりつけました。が,太郎は、
「ええ。謝るのお。めんどくさいよ。」
と,言った後,親にぶたれて謝りました。
「めんご,めんご。」
と,言って,またぶたれて,今度こそ,
「ごめんなさいでした。」
 その後,家に帰って,宿題をやらされて、自主勉強もやらされて,泣きながら本当に反省しました。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
と,弱々しくうなだれました。
 しかし,親は追い打ちをかけるように,
「許しません。とっとと勉強しろ。」
と,どなりつけました。
 太郎はため息をついて,
「とほほほほ。」
と,泣きながら勉強し続けました。