竹瓦温泉の砂かけババア

2000.03.26.
竹瓦温泉外観

 その日は別府大分毎日マラソンの当日で、
九州の大分、温泉の街・別府なのに朝から雪
が降った。高速道路を降りて、少しホッとし
たメンバーは、お目当てのS屋という店を探
し始めた。昔の旅館を改造した、雰囲気の良
い店だ、と雑誌に載っていたからだ。昨日、
同じ大分県の湯坪温泉で一泊した温泉部会の
5人は、今日は別府に廻り、何ケ所か立寄り
湯につかりながら帰るという予定だ。運転手
のシゲさんの横で雑誌をにらみながら、「次
の信号を左、えーと、左手4軒目の筈だ。」
と半分当てずっぽうでナビゲートすると大正
解!目的の店にたどり着いた。      
 S屋はもとは旅館だったそうだが、印象は
大正から昭和初期の高級住宅地の普通の家と
いう感じだ。例によって、そこだけ洋風の応
接間が有り、今はギャラリーになっている。
店は、まん中に大きな木の長いテーブルがあ
り、その周囲の昔の縁側らしき所に4人がけ
のテーブルが並ぶという構成で、どこからで
も庭が眺められる。           
 メンバーの間で、どんな食べ物だろう?と
議論と推測の的だった「やせ馬」が、きな粉
をかけた細長い団子だったことが判明し、お
腹もふくれてきたころ、中央の長いテーブル
に座っていた我々の前に、かなりいける女と
二枚目、ひげをはやした男の三人が座った。
なんだか怪しい雰囲気の三人だが、取りあえ
ず無視することにした。         
竹瓦温泉の玄関  シゲさんとどこの湯に立ち寄るかを相談し ていると、ひげの男が割って入った。彼はボ ランティアで ”スパレンジャー”なるもの をやっていて、別府に来られた人に温泉の情 報を提供することが役目だそうだ。彼は我々 の話を聞いて”竹瓦温泉”がいいと推薦して くれた。竹瓦温泉には砂湯があり、この道  40年の砂かけババアがいるという。この道 40年?少なくとも60歳ぐらいになる、ほ んまかいな!疑り深い目をしていたからだろ う、彼は顔写真入りの「スパレンジャー証」 をこれでもか!という感じで見せてくれた。 別府の青年会議所のメンバーがやっているら しい。メンバーの中でも髭のスパレンジャー は彼だけだそうだ。             結論から言うと彼等は良い人たちだった。 S屋を出て、わざわざ我々を案内してくれる ことになった。さらに、駐車場がない筈だか らと、近くの”二枚目”の駐車場を貸してく れた上に傘まで貸してくれた。                                       「竹瓦温泉」はまず外観から立派だった。 木造でどっしりと大きい、昔の温泉の雰囲気 溢れる外観だ。なにより安い!玄関を入って 左が砂湯、右が普通の温泉になっているが、 砂湯は一回610円、普通の温泉はなんと  60円だ。これだと家に風呂がなくても問題 ない。毎日、温泉につかっていられる。  
砂湯-610円 普通の温泉-60円  砂湯は三層分吹き抜けで、まん中に高さが 二mぐらいの木造の塀が有り、男湯と女湯に 分けられている。入り口を開けるとだんだん 下に降りていくようになっていて、上から順 に脱衣場、上がり湯、掛け湯、砂湯となって いる。入ったとたんに”砂かけババア”の声 がした。                  「おにいさん、ちょっと待っててな。今、 一杯やけ。」                なるほど!看板に偽りなし。この道40年 といわれても不思議でない年配の人が二人、 スコップで新しい床を作っている。少し待っ てから自分の番になった。砂かけババアがて いねいに入り方を教えてくれる。       「おにいさん、あそこだけはタオルで隠し とき。あの時計で15分やで、起きる時は、 まず腕を外に出して、それから身体の砂を手 で払うんや。」              と注意を受けながら砂をかけられる。首の下 までていねいに砂をまわしてくれた。温度は かなり熱くなり、砂の圧迫感と相まってかな り効きそうな感じがする。上がり湯をして着 替えをし、ロビーで冷たいものを飲んでも身 体が火照る。ハッキリ言って最高です。湯の 街・別府の年輪を感じさせてくれる竹瓦温泉 と砂かけババアに、それから親切であやしい ”スパレンジャー”に大感謝したのです。 

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