今回は、子どもたちと関わるときの私たち大人の基本的な態度について考えてみたいと思います。子ども達を取り巻く様々な変化の中で、私たち大人の教育観も多様化しています。様々な価値観が交錯している今日的状況の中で、私たち教師は、どのようなスタンツで子どもたちと関わればよいのでしょうか?
1.教育は子どもの自律(自立)を促すこと 今日、私たちの周囲にはモノが溢れており、必要なモノはすぐに手に入れることのできます。また、困ったときにはすぐに助けを求めることもできます。これは確かに豊かで便利な社会と言えます。消費文化はしっかりと根付いているようです。しかしその傍らで、少子化や高齢化は明日の社会に暗い陰を投げかけています。この影響は、子ども達にとっても無縁ではありません。例えば、消費優先の生活習慣や少子化による過剰な援助は、子どもたちの様々な能力獲得の機会を削いでいるのです。 子どもの周囲をみてみますと、昨今子ども達を巻き込んだ事件や事故が後を絶ちません。この背景には、思考することの面白さや人と関わることの愉しさを味わう機会が少ないこと、忍耐の場面や達成感・自己充実感などを味わう機会が欠如しているなどが指摘されます。これらはいずれも子ども達自身が「明日に生きる」上で大きなハンディを背負わせていることになります。 つまり、子ども一人ひとりの自律(自立)とその調和の機会を保証することは、現代の教育において欠かせません。そのために「子ども自らが感じ、考え、判断し、行動する」という習慣を生み出すことは重要です。ダルクローズも述べているように、心と身体の調和を促すことは、生涯学習の視点からも重要となるのです。 例えば、2〜3歳頃の子どもは、服のボタンをはめようと一生懸命に挑戦しますね。この時にすぐに手を出してしまう大人は、子どもの学習機会を奪っていることに気づいていない。このような時、大人は子どもの挑戦をそばでじっと見守ってあげるだけでいいのです。これも大切な学習のための空間なのです。 2.興味や関心を引き出す環境作り 子ども達の自立(身体のひとりだち)や自律(心の独り立ち)のためには、子ども達が自らの五感を駆使して、自分の興味や関心を焦点化させることが出きる環境作りが大切です。
興味や関心は、「あれッ(不思議だな)」とか「オー(すばらしい)」あるいは「ヨシッ(やるぞ)」などの感情を生むことといえます。これらの感情は一人ひとりの心の中から湧き出てくるもので、周囲の者が分け与えるようなものではないのです。そこでは、例えば、花を見て「きれいだねェ。私この花の○○なところが好きだヨ」とか、音楽を聴いて「ここの所が素敵な音楽だね。私この音楽、好きになったヨ!」といったような、大人の好奇心溢れる態度(感性)に触れることが重要なのです。まさにこどもたち一人ひとりの態度(感性)は、周囲の大人の心の投影なのです。子ども達は、何気ない周囲の出来事に触れて、その変化や不思議に自分の気持ちが注がれるようになると、その感動を基礎にして新たな世界への挑戦(学習)を自分の力ではじめていくのです。 3.安心感をしっかり味わうこと−「睡眠」「食事」そして「愛されている」という実感− 興味や関心を生み出すためには、子どもが「安心感」を感じられるような関わりがポイントとなります。興味や関心の旺盛な子どもは、周囲の人々に、自分の心の内容(興味や関心)を伝えたくなるのです。自分のできること、自分の知っていることなどを見て欲しいのです。このときにみられる姿は明らかに「自己表現」の空間といえます。 興味や関心に誘い出されるように、子ども達は様々なことが「できる」「わかる」ようになります。それらの能力をより膨らませるためには、子ども自身が周囲の人々に「見守られている(愛されている)」という実感が必要なのです。言い換えるなら、学習行動に必要な「意欲」や「理解」「思考」などを生み出すためには、小さな自信や小さな勇気の蓄積が必要なのです。その蓄積を促すのは、周囲の人々の「温かいまなざし」と言えるのです。 加えて、安心感を生み出すために「睡眠」と「食事」は重要な要件となります。つまり、規則正しい生活のリズムを作ること、バランスの良い食事をとることなどは、心と体の健康に欠かせません。例えば、睡眠不足や空腹感がイライラや短気の一因であるように。 学習社会は、いま「競争」から「共生」へとそのスタンツを大きく変えようとしています。まさに、教育は、日々の遊びや生活の営みを、大人と子どもが共に試行錯誤し、共にその変容の過程を楽しむこと、がポイントとなります。 リトミックは「心と身体の調和を生み出す」という今日的教育課題に迫る大切な部分を担っています。その良さをより際立たせるためには、私たちレスナーの「共生のセンス」が重要となるでしょう。レッスンの前に(あるいは並行して)、保護者の皆様と、生活のリズムやバランスの良い食事について、そして「愛いっぱい」の雰囲気を醸し出すような情報交換も、レスナーにとって大切なやりとりだと思うのです。
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