1999/10/30初掲、2008/8/12最新更新
神 原 雅 之


Q1. 「リトミック」って、何ですか?
A. リトミックは、スイスの音楽教育家・作曲家であったエミール・ジャック=ダルクローズ(1865〜1950)によって提唱された音楽教育の考え方です。音楽と動きを融合した教育スタイルに特徴があります。

 ダルクローズは、19世紀後半〜20世紀初頭にかけて、音楽学生の基礎トレーニング(ソルフェージュ、イアー・トレーニング)の授業をおこなう過程で、“学生の音楽的センスを高めるためにどうしたらよいのか”という課題に直面し、いろいろと試行錯誤しました。

 日本では既に明治時代に紹介されています。山田耕筰も、ドイツ留学時にダルクローズのアトリエを訪れて、大きな刺激を受けたようです。その後、日本において、リトミックは音楽教育だけでなく、舞踏(ダンス)、演劇、幼児教育、障害児教育などでも、応用・指導されています。

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Q2.リトミックのレッスンは何をめざしているの?
A.ダルクローズは、「心と身体の一致・調和を促す」「音楽的なセンスを培う」と述べています。これを、より具体的に考えてみたとき、リトミックは一人ひとり様々な目的で経験されると思います。ある人は、音楽的センスを高めるために、ある人は音楽しているときの喜びを味わうために、またある人は音楽を通してコミュニケーションを楽しむためになどです。
 要するに、リトミックは音楽を通じて、一人一人の自己実現の空間となるのです。

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Q3.リトミックとダンスはどこが違うの?
A.リトミックもダンスも、身体の動きを用いて表現活動をします。しかし、ダンスでは身体的なトレーニングが重要です。動きの善し悪しは、そのまま表現の結果に反映されるのです。その一方で、リトミックは、動きを通して、音楽を学ぶ方法と言えます。あくまでも、学習の結果よりもその学習過程で経験する想像性や創造性のセンス獲得にウエイトが置かれているのです。

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Q4.リトミックではどうしてピアノレッスンをしないのですか? 3・4才からピアノを始めた子どもたちに遅れをとりませんか?
A. 文字を習う前に、おしゃべりをしたり、読んだりするように、音楽学習の初期では、(ピアノや楽器に触れる前に)音楽を聴き、 音楽を感じ、その音楽の意味を理解することが大切です。
 ピアノのテクニックは、音楽をどう表現したいのかという思いがあってこそ役にたつのです。 そこで、音楽の学習(リトミック)では、まず誰もが持っている動きを通して音楽を経験し、その特質を味わうのです。
 やがて、リトミックの中でピアノに触れる機会が生じます。 そこでは、リトミックで経験した音楽的なセンスを基礎に、ピアノの鍵盤を使って「音楽する」のです。 3〜4歳からピアノを始めた子ども達よりも進度が大きく遅れるのでは、という心配は無用です。

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Q5. 男の子なのでリトミックよりスポーツの方が良いのではと少し思っているのですが?
A. いろいろなスポーツに親しむことはとてもよい経験ですね。スポーツでは反射性や反応力、判断力や創造力など、多くのスキルが必要です。 それらの能力がある程度そなわっていなければ楽しめないかもしれません。
 リトミックでは、スポーツや生活に必要ないろいろな感覚的センスを総合的に経験しているのです。リトミックは、年齢はあまり関係ないのです。幼い人はそれなりに、キャリアのある方もそれなりに、いま自分が持てるスキルを用いて、音楽に参加し、心と身体の調和した体験をすることに意味があるのです。

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Q6. レッスンに保護者は付き添わなくてはいけませんか?
A. 子ども達はおかあさん(保護者)に温かい目で見守られているということで、とても心が安定します。 心が安定しているときに、インスピレーションや想像力が湧き出てくるのです。とくに幼い子どもの場合、親と子が共に育ち、 共に学び(共に遊ぶ)ことが学習の基礎となるのです。時には一緒に楽しみ、また時には子ども達を背後からそっと見守ってあげるのがポイントです。

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Q7.レッスンの時に一緒について来ている下の子がお兄ちゃんと同じようにしたがりますがいいのでしょうか?
A.
意欲的に参加するのはよいことです。学びたいときが、学習の最適期と言えます。 下のお子様が主体的に参加しているのなら、その姿を温かく見守りましょう。

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Q8. 3歳の我が子が、私の側からなかなか離れられなくて困ります。もっとお友達と活動できるようになって欲しいのですが。
A. お気持ちはよくわかります。 子どもの心に寄り添って考えてみましょう。おそらく、お子様はお母さんの側が最も安心できるのでしょう。子どもがお母さんの側から離れるのは、とても大きな勇気と自信が必要なのです。
 しかし、お母さんの側から離れられないでいるといっても、 同年代の子どもの姿は気になっているのだと思います(じっと友だちの姿を見つめているかも知れませんね)。
 時に「(友だちと)一緒にやってみようよ」と行動を促してみるのもいいかもしれません。もし少しでも参加したらしっかりと誉めてあげましょう。
 要は、親の側から離れられるようになるまで辛抱強く見守るのがポイントです。 そこでは、親の願い(友だちと一緒に活動できるようになってほしい)を無理強いするのだけは慎みましょう。

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Q9. お友達にもリトミックの良さを教えてあげたいのですが、具体的にどう説明したらよいのでしょうか?
A. リトミックの良さは、これを経験した人が最も音楽の良さを味わうことができます。まずは一度経験してみることが、 ポイントとなるでしょうね。リトミックについて話をするよりも、実際の様子を見てみることを、見るよりも(リトミックを)実際に経験してみることをお勧めします。
 音楽は、見たり聴いたりしただけの人よりも、実際に音楽に参加した人が最もその楽しさを味わうことができるのですから−。

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Q10. 以前に幼稚園に勤めていました。最近、友人と一緒にサークル活動(2歳児とその親のグループ活動)をはじめました。その中で、リトミックを取り入れていきたいと思っているのですが、どのようなことから始めていけばよいのでしょうか?
A.まずは幼稚園教諭時代に親しまれた音楽あそび(指あそびや手遊び、ペープサートなど)を用いて、音楽の楽しさや面白さを味わうことからはじめられてはいかがでしょうか。
 (リトミックでは)音やリズムの変化にすばやく反応する(即時反応)あそびから取り組まれると良いと思います。例えば、音が聴こえたら動く、音が無くなったら止まるなど。身体の動きを伴う簡単なダンスやリズム・ゲームも良いと思いますよ。要は、音楽を「聴く」習慣作り、音の変化に心を焦点化する体験を重ねていくことが重要です。
 「今日はリトミックの日だから、リトミックしなくちゃ」なんて、あまり構えないことです。2歳児の活動では、何よりも、まずは周囲の人たちと共に「人との触れあいを楽しむ」ことがポイントになると思いますよ。
 最近は、リトミックの指導書もたくさん出版されています。インターネットから本の検索を行っても、リトミックの指導書を容易に入手することができます。
 ご参考までに関連サイトの「リトミックの本」もご覧下さい。

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Q11. 幼稚園や保育園などで行っている 「リズム遊び」をリトミックと言ってもよいのでしょうか?
A.リトミックは、その対象(幼児、小学生、音楽学生、高齢者、障害をお持ちの方等など)に応じて、さまざまな方法が考案されます。いずれも、リトミックは、(音楽、そして動きを通じて)音楽を学ぶ過程で行われる行為といえます。ダルクローズ(リトミック創始者)は、音楽を感じたり理解するために動きを導入することを考えたのです。
 要は、音楽を学ぶ、あるいは音楽を理解するための手がかりとして「動き」を用いるというのであれば、リズム遊びも立派なリトミックであると考えられます。その一方で、リズム遊びが、音楽を感じること無しに進められているとしたら、それはリトミックとは縁遠いものと言えます。

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Q12. 療育のために行われる音楽活動とリトミックの違いは何なのでしょうか?
A.前述(Q.11)のように、ここでも、音楽と動きは、相乗的・相補的に関わり合っている必要があります。ダルクローズ自身も、ハンディを抱えた人たちと共にリトミックを実践しました。そこでも、リトミックは療育を目的として、音楽的活動において「動きと音楽」を関係づけた活動を行い、音楽の情動的な力を療育のために活かしました。
 リトミックでは、一人一人が音楽を感じたり、音楽を理解したりするために、「音楽と動きの自然な関係を意識化すること」を実際に体験することが欠かせないと思われます。

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Q13.2歳の娘を幼児リトミック教室に通わせています。幼児向けのビデオを観ていつも楽しそうに踊っていたので、1日体験をしてみると予想通り ぴたっとはまった感じで、4月から始めました。当初は、家庭内でみられる反抗期の姿とは裏腹に、先生の後について積極的に参加していました。
 ところが、最近は(お友だちを意識する時期に入ったようで)教室の最中でもおっかけっこが始まって、先生の呼びかけも耳に入らない様子。お友だちと遊びたいのなら、公園へ連れて行った方が良いのかな〜と考えています。折角だから、このまま在籍して教室へ通わせた方が良いのか、それとも辞めてしまうべきか思案中です。ちなみに、娘は近々3歳になります。リトミック教室へ「行きたくない」と言ったことは一度もありません。

A.楽しくリトミックに参加されているご様子、とても嬉しく読ませて頂きました。お子さまの興味は、先生の姿から、友達との関わりへと移行しているようですね。おそらくリトミックの先生も、そうしたお子さまの姿をみて、さまざまな工夫をされているだろうと思います。
 この時期、確かに、お友達と一緒に遊ぶことは大切な体験だと思います。しかし、そのことはお子さまが音楽を避けようとしているのではないと思われます。長い目で見たとき、いま周囲の友だちとの関わりを絶つことや、お子さまが潜在的に持っているところの資質、つまり音楽を「聴く」(心を焦点化させて音楽と関わる)という機会を失うことの方が残念に思われます。
 人の話を聞いたり、相手の思いを受け止めたり、音楽の繊細な変化に気づいたり、というのは特に大切な体験です。おそらく、お子さまは、友達との関わりを楽しみながらも、無意識な体験を通して、音楽をしっかり聴いているのだと思いますよ。
 言葉の学習(語彙の獲得)を考えてみると分かり易いと思います。言葉を覚えるのは、周囲の様々な語りかけが欠かせません。周囲の優しい言葉遣いを聴いて、優しい言葉を獲得していきます。音楽も同様です。周囲の者からさまざまな音楽で語りかけもらう体験を通して、様々な音楽的語彙(音楽を特徴づけている様々な要素を聴き分ける体験)を獲得し、音楽で語りかけてくれている人の気持ちに触れているのです。お子さまが、リトミックをいやがっているのならともかく、音楽参加に抵抗を感じていないとしたら、それは、これまでの保護者・教師の関わりが、それなりにうまく進められてきたということの証でもあると思います。お子さまは、毎週リトミックに通う中で、遊びの感覚を通して、多くのことを学びとっているのです。
 もう一つ、この時期に大切なことは、子どもが学んでいるときに、子どもと取り囲んでいる大人も一緒に学ぶ姿を見せること。子どもは、周囲の大人が学んでいる姿をみて、(子ども自身が)学ぶことの楽しさや面白さに触れ、そして「学ぶ方法」を学んでいるのです。長い目で、音楽と関わり、音楽の奥深い喜びに触れ、子どもたちが音楽することを「生涯のパートナー」としていくのを共に支援していきましょう。

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