Q.1音楽は、心の健康・維持、快復など、医学的にも深い関わりがあると聞きました。音楽は、子どもの成長や脳の発達にどのような影響を及ぼすのでしょうか? |
@かなり古い時代から、音楽は人々の心身の健康と深いかかわりを持ってきました。最近では、「音楽療法」への関心が高まっていますが、それは音楽が心身の健康に何らかの影響を及ぼしているという認識の表れでもあります。実際に、「音楽療法」の取り組みを通して健康を快復維持されているケースは少なくありません。(よい医者は病状の原因を見抜く高い見識を備えていますが、音楽療法でも賢いセラピストとの出会いがポイントとなるでしょう。)
A子どもの成長や脳の発達の観点から、音楽との出会いは人間の様々な能力を発揮させる機会を提供してくれます。ノンバーバル(非言語)情報から、私たちは実に多くの情報を得ているのです。そこで重要なことは、どのような形で音楽と出会い、どのような人と音楽を共有するかが重要なことです。
B近年の研究によれば、右脳は感覚的なセンスに優れ、左脳は論理的な思考に優位であるとの言われています。とりわけ、音楽は右脳の刺激に有効だと言われています。このような観点からみて、音楽は脳の活性化に重要な刺激財となり得るのです。
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Q.2 現在1才10カ月の息子は、テレビやビデオで歌が流れると手をあげてとんだりして音を感じている様子。子どもはみんな、年相応に同じような音感があるの? |
乳幼児が、音楽に合わせて手をたたいたり、身体を揺すったりする姿はよく見られます。音楽のリズムに反応することは、かなり幼い幼児でもできますが、一般的には3歳頃はまだ外界のリズムにうまく合わせる(同期)ことはできません。自分の中にもっている自分なりのリズムに合わせての楽しみ方が中心となります。4〜5歳頃になると、うまく外界のリズムにノレるようになります。
音感やリズム感の発達は、運動能力の成長や理解力の高まりとも深く関係しています。小学生くらいになると音程や和音の微妙な変化にも反応できるようになります。そうしたスキルを身につけるうちに、音楽的な好み(嗜好)もできあがってきます。
人の好みは、多様な要因が複雑に重なり合ってできていますが、だいたい世代ごとに好まれる音楽のタイプがあります。幼児期は童謡やわらべうた、青年期にはロックやポップスが好まれ、年齢が高まるにつれて民謡や邦楽などが好まれる傾向があります。
でもそれは、例えば周囲の大人が「子どもにいい歌=童謡」と考える価値観が、とくに幼い子どもには影響しているのです。例えば、もしロックがいいと考える大人が増えれば、幼児がロックを歌う姿を見る機会も増えるかもしれません。要は、音楽的な好みは、音楽的な価値を承認されることによって大きく影響を受けると考えられ、その意味では(特に幼い幼児の場合)周囲の大人の価値観に依存するところが少なくないと考えられます。
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Q.3 天才ピアニスト、バイオリニストなどの才能は、生まれついての天性?それとも環境によって助長されるもの? |
音楽性な才能は、遺伝(天性)にも環境にも関係します。人は誕生するとき、すでにさまざまな能力をもって生まれてきます(遺伝的要因)。誕生後は、その能力を生かしながら、さらに能力が洗練されるよう学習します(環境的要因)。この学習(環境)しだいで、音楽的な才能は大きく変わってくるのです。
音楽的な才能は、語彙を身につけるプロセスとよく似ています。語彙を身につけるとき、まず周囲の人の言葉を聞き、それを実際に使ってみますよね。語彙が増えると、自分の思いを伝えるために、より適切な語彙を選びます。
音楽もまずは聴き、音を感じ、それから歌ったり演奏したりと表現して、音楽で思いを伝えるプロセスが、音楽の語彙を増やします。その際、、さまざまな音楽に触れ、心地よいと感じることが重要。「音楽が好き」という気持ちを育むことが、才能を花開かせる要因になることは言うまでもありません。
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Q.4 男の子と女の子で、音楽の能力は違うものですか?有名な作曲家には、男性がほとんどのようですが・・・。 |
そうですね。バッハ、ベートーベン、モーツアルトなど著名な作曲家の多くは男性ですね。しかし、音楽的な能力は性差に影響を受けるものではありません。
例えば、コーラスグループは、男声の団体の数よりも、明らかに女声の団体の数の方が多いですね。「好きこそものの上手なれ」という諺もあるように、「音楽が好き」という感情は、音楽的才能を高めるための基礎になるセンスなのです。
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Q.5 早くから音楽にかかわると、音を聴く耳は肥えるのでしょうか? |
乳幼児の場合、音楽って楽しい!気持ちいい!という感情を持つことが大切です。つまり、さまざまな音楽に触れて、音楽の違いを発見し、音楽することの喜びを味わうこと。こうした体験をたくさんつむことで、敏感な耳、そして音楽を愛する心が育まれるのです。
乳幼児の姿には、そばにいる大人の姿がうつし出されます。まずは乳幼児を囲んでいる大人が、さまざまな音楽(ジャンルを含めて、たくさんの楽曲)に興味や関心を抱き、音楽を愛する心をもつことが何よりも大切でしょう。
音楽的な才能をみがくには、ちょうどいい(もっとも敏感に感じ取られる)時期があります(敏感期)。たとえば、音を記憶する能力(絶対音感)は幼児期を逃すと身につきにくいという報告もあります。しかし、そういった能力は特殊な能力と考えてよいでしょう。
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Q.6 胎教の影響ってあるんですか? |
「胎教は効果があるのか」という議論は、かなり古くから行われてきたようです。現時点では、胎教の効果があるかどうかは「わからない」というのが現状なのではないかと思います。効果があるとする立場からは、妊娠7ヶ月の胎児は既に体外の音を聞いているという実験報告もあります。しかしながら、胎児が意識的に音を聞いているのかどうかはまだはっきりしていないのです。
ただし、胎児の成長過程っで、母胎の心身の影響が強いことも確か。お母さんの心身の健康を維持するために、お母さん自身が心地よいと感じる音楽に触れることに、胎教の意味があるのではないでしょうか。「胎教にいい曲」をイヤイヤ聴くよりも、ロックでもなんでも、その時お母さんがいちばん聴きたい曲を聴くほうがいいこともあるのです。
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Q.7 音楽を聴いて楽しいと思えるような思いは、どのくらいからわかっているのでしょうか?
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「音楽とは何か」という定義しだいで、かなり「音楽を楽しむ」という範疇が違ってくるでしょうね。私自身は、音楽をかなり幅広くとらえて、「音による何らかのメッセージ」だと考えています。そうすれば、かなり幼い乳児も「音楽を楽しむ」ことができると言えますね。
日本では、古くから、赤ちゃんの寝室に、音の出るおもちゃを置く習慣がありますね。これは赤ちゃんが音に対して強く反応することを、多くの人が認めているという証しでもあります。
音楽は、音ひとつからでもさまざまな意味を読みとることができます。そして、一つひとつの音がいくつか連続してできるメロディーやリズム、ハーモニーからも読みとることができるのです。
乳幼児期には、まず周囲の音に耳を傾け、その存在に喜びを見いだすこと、面白いと感じることが必要です。先日1歳半の子どもが、傘に落ちてくる雨の音に大喜びしている姿を見ました。このような経験も、大切な音楽的経験となるでしょう。
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Q.8 音楽のおけいこでも、種類(歌やピアノなど)によって何歳からはじめたほうがいい、あるいはあまり早くはじめても意味がないなど、始め時の適齢期はありますか? |
前述しましたように、音に対する能力は、「臨界期」あるいは「敏感期」と呼ばれる時期を考慮しながら教育を行うと効果的だと言えます。しかし、だからと言って、あまりに早い年齢から始めるのも一考が必要です。
たとえば、ピアノでは鍵盤を圧すだけの腕や指のスキルが備わっていないのにおけいこを初めても、“ピアノを自由に操れない”という苦痛な思いだけが残ってしまう。管楽器では、ある程度の心肺機能が備わっていることが必要ですね。
そこで、乳幼児の子どもたちにはリトミックをお奨めします。「音楽と共に過ごす」楽しい時間を持ち、「音楽のうねり」を体験することから始めるのが賢明と言えます。(それぞれの年齢で)今持てる力(たとえば、身体の動きなど)を通して、音楽のシャワーにどっぷりとつかることは、音楽的センスを高めるのに有益な経験となると考えられます。
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Q.9 ピアノを習わせると頭の良い子に育つと聴きましたが本当ですか? |
「ピアノの演奏ができる=頭の良い子」ではありません。たしかに楽譜を読んだり、手指を操ったりする能力は、ある意味で「頭のよい子」の証だと思います。また、ピアノのおけいこでは、さまざまな事柄を、ある時間的な流れの中できちんと処理する能力が育つでしょう。
でも、それ以上に、先生や仲間など周囲の人々の思いを受け止めたり、読みとったりするノンバーバルなコミュニケーション能力(言葉では言い表せない音楽や絵画、動作、顔の表情などの情報を読みとる能力)が育つことが、音楽の学習の役割だと思います。
見通しを立てたり、周囲の状況を判断したりするときには、論理と感性の両方の能力が必要です。音楽は、その両方のセンスを高める貴重な場面を提供してくれるのです。
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Q.10 おもちゃの楽器は、音楽の教育として役に立ちますか? |
おもちゃの楽器は、音に対する親近感を高めるのに有効だと思います。しかし、多くの場合、玩具では物足りなくなってしまうのです。その玩具に興味が失せてくるのは、自分の思いが、玩具では十分に果たせなくなるからです。
できるだけ本物に触れさせたいと考えます。たとえば、あなたが大太鼓を叩くとしましょう。オーケストラで使われるような本物の大太鼓だと、音が奏でられただけで心が魅了されてしまうでしょう。玩具の大太鼓では、あなたの心はすぐに物足りなくなってしまうことでしょう。本物は、出される音そのものに、私たちの心をつかんで離さない魅力が備わっているのです。子どもには、玩具よりも本物に触れさせてあげられるようにしたいものです。 |